【たかせクリニック髙瀬理事との対談】第1回 行政との連携と主治医としての役割について

――らいふ:介護保険法により定められ、一部は税金によって運営されている介護施設にとって、行政との連携は不可欠。高瀬先生は医師として行政との連携をどのように行っていますか

 

高瀬:訪問診療を依頼されて、患者さんのご自宅や施設に訪問すると、医療や介護だけではそのご家族が抱えている問題は解決しないとわかることが多いんだよね。住まいや生活支援、予防など、家庭内の絡み合った問題を紐解いて解決のために行政と一緒に動いています。特に介護家族が協力的でないばかりか、ネグレクトといった虐待など本人に著しい不利益があると想定される場合には行政の協力が不可欠です。

そのほかに僕が力を入れているのは、在宅へ訪問する医師として、その活動を広く世間に知ってもらうこと。僕が出演したテレビ番組も見てくれたんだよね。あれってすごく大切なことで、認知症ケアを正しく知らない人は世の中にたくさんいるの。らいふさんの施設だって、失礼だけど本当にスタッフの皆さんが認知症をきちんと理解しているかどうか怪しいと思った方がいいよ。僕が世の中にどんどんアピールすることで、まずは「認知症ってそんな病気なんだ」と関心を持ってもらいたいと思っています。行政だって、どんどん患者が増えてどんどん医療費が膨らむのを黙って見過ごしたくないでしょ。

 

――らいふ:なるほど。啓発活動をされているのですね。

 

高瀬:そうそう。僕は大田区発の認知症ケアの伝道師(笑)。こうやってアピールを続けることは、結果として行政との連携にもつながると思うよ。

 

――らいふ:確かに。そういえば高瀬先生は、行政が推奨している認知症に関する研修活動もされていますね。

 

高瀬:認知症サポーターのことだね。行政が認知症予防を進める「オレンジプラン」という計画の一つで、各市区町村が行っている無料の認知症講座のこと。僕も診療所がある大田区で「オレンジアクト」というNPO法人を立ち上げて頑張っているよ。大田区からの依頼でオレンジアクトのメンバーが「認知症サポーター養成講座」の講師を務めています。地域の人なら誰でも無料で勉強できるし、受講者には修了書の代わりに「オレンジリング」っていうブレスレッドが配られる。ちょっと賢くなった気分になるよね。行政が認知症を広く知ってもらおうと推奨しているのだから、医者の僕が頑張らないわけにはいかないよ。らいふさんでも受講してみたら?

 

――らいふ:そうですね。高瀬先生の話を聞いたら受講してみたくなりました。ところで、施設では夜間等の緊急コールやターミナル期(お看取り)といったシチュエーションは、いつ発生してもおかしくはありません。だからこそ主治医との連携は必要不可欠。施設における「主治医の役割」とは何でしょうか

 

高瀬:「ムダなく、ムラなく、ムリなく」は、僕が高齢者の治療とケアをする上でのキーワード。お看取りまでの間にいろんなイベントが起こるけれど、まずはトラブルを減らすための予防は大切だよね。つぎに、何か起こっても焦らず慌てず対応できるよう、事前に家族や介護スタッフと情報共有をすること。主治医の役割は、医療を提供するだけではなくて、「療養空間の安定化」のためにみなさんと協働することだと思っています。

今後、施設利用者の医療依存度はどんどん高まっていくことが予想されています。まずは、医療者・介護スタッフが目指すところを共有し、共通理解を持って日々の治療やケアに取り組むことが大切じゃないかな。





髙瀬理事長プロフィール

◆ 高瀬クリニック高瀬理事長 略歴  


信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。昭和大学客員教授。麻酔科、小児科を経て、以来、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。


現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。


医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長

髙瀬義昌(たかせよしまさ) 


認知症サポート医

日本プライマリ・ケア連合学会認定医

日本老年精神学会専門医

 

現在の主な役職 

公益財団法人 日米医学医療交流財団 理事

一般財団法人 ITヘルスケア学会 副代表

公益財団法人 杉浦記念財団 理事

一般社団法人 蒲田医師会 理事

東京都認知症対策推進会議 認知症医療部会 委員

東京都地域ケア会議  推進部会  委員

厚生労働省 高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ 構成員

日本薬科大学 客員教授

昭和大学 客員教授