【五十嵐先生との対談】第1回 共同研究の意義とこれからの展望について①

 
 
らいふでは、弊社運営施設の指定医であると共に認知症治療の権威である医療法人財団至高会たかせクリニック 髙瀬 義昌 理事長、
東京大学大学院薬学系研究科客員准教授の五十嵐 中 先生、国際医療福祉大学医学部副学部長公衆衛生学専攻主任の池田 俊也 先生と協同で、
認知症高齢者(ご入居者様)への減薬に関する産学共同の取り組みを行っております。

今回は、共同研究の意義について、五十嵐先生にお伺いした内容を2回に亘り掲載いたします。

第1回の対談テーマは、「共同研究の意義とこれからの展望について」です。
~ 対談内容 ~

ーーらいふ:認知症と減薬に関する共同研究の意義についてあらためて、その意義をお聞かせください。そもそも、多剤併用、あるいはポリファーマシー、それから薬を減らすことというのは決して新しい

テーマということではないというふうに理解していますが。

 

五十嵐:そうですね。実際、様々な介護事業会社、あるいは内外の様々な研究で、これまでもこの日本で高齢者の多剤併用の問題、あるいは高齢者の不適切な薬物使用の問題は報じられてきています。

 

例えば6剤以上の併用をしている高齢者は、それ以外の方、5剤以下に比べて、いわゆる有害事象・副作用の発現するリスクが高まるというような研究も報告があります。

仮に、保険請求のデータを使って6,000人ほど高齢者をチェックしたら、4割程度の高齢者に、ガイドラインのチェックに当てはまる潜在的に不適切な使用、英語でよくPotentially inappropriateというふうに言いますが、潜在的に不適切な使用、すなわち使った瞬間に何か困ったことが起こるわけではないのですが、ある意味で卑近な言葉を使うなら、「あぶなっかしい」という言葉になるでしょうか。そうした潜在的に不適切な使用がみられたという研究結果」もあります。

 

それから、薬剤の数に関しては、28施設の高齢者施設でおよそ1,000人の高齢者の人を調査した結果では、実は6割以上、2/3の高齢者の方が6剤以上の薬剤を使っていたデータもあります。

 

さらに、もうひとつ。

これはドラックストアのデータから評価した研究ですけども、18万人の高齢者の方の薬剤使用のデータをみたところ。まず多剤併用、これはやはり、65歳以上からでも1/4、実は、これは年齢が上げるごとに上がっていきまして、65~74歳、75~84歳、85歳以上でおおよそ10%ずつ上がっていく。

すなわち、85歳以上の高齢者に絞ると半分近く47%の人が5剤以上使っている、実は6人に1人、15%が超多剤併用、10剤以上使っているというようなデータもあるのです。

 

ーーらいふ:なるほど。と言うことは、高齢者がドラックストア経由でお薬を貰っている、調剤薬局経由でお薬をもらっている人の1/4がやはり、潜在的に不適切な使用というのが実態となるのですね。

 

五十嵐:そのとおりです。このような多剤併用ということ、あるいは不適切な薬物使用、こういったよく真っ先に出てくるのが費用(コスト)の問題です。

75歳以上の高齢者であれば、最低でも9割、原則、国から保険から費用(支出)が出るわけで、この費用問題もあります。

考えてみれば不適切な薬物使用、薬を増やしていくことで、むしろ、リスクが増していくというのは、これは、その薬の価値をむしろ下げることにもなります。

すなわち、本来であればちゃんと投与されれば効くはずのものが、ある意味で、飲み合わせが悪い、重複投与、過量投与によって、本来、果たすべき役割を発揮できない。

これは費用が無駄になるということだけではなくて、効き目としても、やはり無駄になる。正しく使われていない薬が効くわけがないという意味では、本来は、薬の価値も引き下げていることが、やはりポイントとしてあげられます。

 

ーーらいふ:こうした多剤併用、あるいは、減薬のプロジェクトを進めていくときに、当然、誰しもが考えつくのが、「何剤だったものを何剤に減らしましたよ」という話です。

ところが、こうした結果、薬が何剤になったとか、薬剤費がどれだけ削減できた。こうした軸だけで見てしまうと、ある意味落とし穴にはまるのではないでしょうか。

 

五十嵐:そうです。当然、わざと不必要な薬を処方する医者というのはいないはずです。

それに対して、「安あがりになるから薬を減らしてくださいね」というアピールをしても、いやこれは必要なのだから薬を処方しているんだ」と言われたときに、「安いから」、あるいは、「費用(コスト)が無駄になるから多剤併用をやめましょう」というロジックだけでは、説得できませんし、このプロジェクトの成果を他に広げていこうというときに、やはり、費用(コスト)という軸だけでは、必要だから処方しているという反論に耐えられなくなります。

だからこそ、今回の共同研究で、お金あるいは薬剤数だけではなくて、医療の質、もちろん医療の質とは単純には測れないですけども、当初取締役からお話しのあったQOL、ADL、そうした指標を経時的に、すなわち、プロジェクトをやる前とやった後、さらにやった後もある程度長期的にとっていくことによって、ただ単に「減らして安くなりました。体調が悪くなりました」では、適切な減薬とは言えないわけです。

減らしましたけれども、生活の質・ADLを維持できています。しろ、ある意味で、適性化することでかえって元気になった、そうした事例もいくつかあるわけですけども。施設全体、すなわち、うまくいった事例だけをピックアップするのではなくて、全体としてどのような効き目があったのか。

 

100人いて100人減薬がうまくいくわけではないですので、どのくらいの人にこの取り組みがうまくいって、なおかつ生活の質あるいは日常生活活動をどのくらい維持できたか、ここを評価する。これがある意味で一施設で何かをやりました、一グループで何かをやりました、一大学で何かをやりました、ではなくて、こうした結果を世の中に広めていく際には必ず必要になる。すなわち、他の人にやってもらう時に、説得力を増すツールとして、この共同研究を皆さんとデザインしていきたいです。

 
 
 

ーーらいふ:そうですね。本取組みで最も高いハードルは。

 

五十嵐:やはり、一番ハードルが高いのは、断面すなわち、「一点である程度、瞬間で測ったら何人いましたよ。」こういったデータをとるのは比較的用意です。

しかしながら、当然、減らした効き目というのは、やはり、減らす前と減らした後の二時点で、二地点で見ることが不可欠になります。

今回のフィールドは、一点ではなくて、あくまで時間を追って定期的にデータをとり、これがもっとも特徴なポイント。すなわち、お金だけではなくて、効き目という両方の軸で評価する。これが一点目。

ただ単に一回測っておしまい、うまくいった人だけピックアップしておしまいではなくて、みんなのデータを経時的に評価していく。これが2点目の重要なことだというふうに考えています。

以上が、第1回の対談の内容です。本対談の続きは、第2回の対談にてご紹介いたします。
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