【たかせクリニック髙瀬理事との対談】第2回 認知症と薬の関係性について

――らいふ:認知症ケアは介護者の声かけや接し方が非常に大切です。これは適切な薬が処方されていることが前提なのだと思います。しかし介護職の多くは、医師ほどに薬の知識、特に認知症にはどんな薬があってどのような効果があるのか、それを知る機会は決して多くないのです。ぜひ認知症と薬剤の関係を教えてください

 

高瀬: らいふさんの言うとおり、認知症の方には声かけや接し方がとても大切。しかしまずはその前に「認知症の原因となっている疾患」を見極めることがすごく重要なんだ。例えば慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症等が原因であれば、治療によって認知機能が回復することもある。原因疾患を早期に発見することが、まずは大切なことだと言えるね。その上でアルツハイマー型認知症を代表とする、いわゆる「治らない認知症」の場合は、その治療は薬1.5割、ケアが8.5割なんですよ。そして薬を使うとしても、少量から使うのが鉄則。高齢になると内蔵の機能が低下しているので副作用が発現したり、場合によってはせん妄を起こすこともあるからね。

 

――らいふ:なるほど。

 

高瀬:年齢を重ねれば、誰しも病気や障害の一つや二つは抱えるようになります。認知症の人も同じ。そうなると、認知症の薬以外にも高血圧なら降圧剤を、腰痛なら鎮痛剤を処方される。合計10種類以上の薬を毎日使用している人も珍しくないんだ。

 

――らいふ:それだけ多いと、副作用も心配になりますね。

 

高瀬:そのとおり。薬の影響に関する東大病院の調査では、服用している薬が6種類以上になると副作用を起こしやすくなることがわかっている。副作用はふらつきやめまい、転倒や抑うつ、物忘れや食欲低下、便秘など多岐にわたります。

 

――らいふ:治すために飲んだ薬で具合を悪くしたのでは、本末転倒ですね。

 

高瀬:副作用を抑えるために他の薬を処方することを「処方カスケード」と呼びます。一般的によく行われていることだけど、こんなことをしていたら薬は増える一方だよね。原因疾患を見極め、適切な量の薬を処方することが、非常に大切なことなんだ。そういえば小林さんの施設では、減薬して認知症の症状を軽減させようとする試みを行うとか。

 

――はい。弊社でも「本当にこれを全部飲む必要があるのだろうか」と感じざるを得ない、大量の薬を処方されている入居者がいらっしゃいます。各施設の責任者や看護師が主治医に対して相談・提案してはいますが、恥ずかしながら施設間での情報共有や事例発表等の機会は今まで設けられておらず、現状では「薬を減らした=改善の傾向が見られた」と検証できないのです。そこで減薬による実証計画を立て、各施設の入居者単位ではなくエリア単位で取り組み、より説得力のある成果を世の中に発信できたら、と考えています。


高瀬:減薬によってさまざまな症状が改善されるケースはたくさんあるからね。それを試みる価値はとても大きいと思うよ。もし認知症の症状が改善されたら、患者本人だけじゃなく家族も嬉しいだろうし。

 

――最後に、高瀬先生の医者としての人生観を教えてください

 

髙瀨:Living Well,Dying Well for all.最期を迎える日までその人らしい生き方、安らかな旅立ちとはどのようなものなのかをご家族と一緒に考えながらサポートすることが大切と考えています。そのために日頃から社会的ソリューションの情報収集や、ネットワークの構築をすることを心がけています。

 

髙瀬理事長プロフィール

◆ 高瀬クリニック高瀬理事長 略歴  


信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。昭和大学客員教授。麻酔科、小児科を経て、以来、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。


現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。


医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長

髙瀬義昌(たかせよしまさ) 


認知症サポート医

日本プライマリ・ケア連合学会認定医

日本老年精神学会専門医

 

現在の主な役職 

公益財団法人 日米医学医療交流財団 理事

一般財団法人 ITヘルスケア学会 副代表

公益財団法人 杉浦記念財団 理事

一般社団法人 蒲田医師会 理事

東京都認知症対策推進会議 認知症医療部会 委員

東京都地域ケア会議  推進部会  委員

厚生労働省 高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ 構成員

日本薬科大学 客員教授

昭和大学 客員教授