【たかせクリニック髙瀬理事との対談】第3回 認知症プロジェクトチームについて

――髙瀬:らいふさんが施設の運営で気にかけていることは

 

らいふ:常に心がけていることは、本社と現場との認識・意識のかい離をなくすことです。我々本社に所属する立場の職員は、直接介護サービスを行っていない、いわゆる“非生産部門”です。各施設へ本社から電話等で連絡を行う際には、連絡相手の動き・思いを十分考慮して行うように指導しています。24時間365日サービスを提供している現場へ連絡するわけですから、当然対応できない場合もあります。例えば、そのような状況に置いて「すぐに折り返して下さい」などと「つっけんどん」な指示を出してしまったら、連絡を受けた側は良い気持ちにはなりません。要件を簡潔に、相手の動きに考慮して、常にお客様へサービスを提供している生産部門への経緯を持って接するよう、私も含め本社職員は心がけています。現場サポート・現場ファーストのスタンスを徹底することで、結果として現場負担を軽減し、その分より手厚い介護サービスの提供につなげることができるはずです。また、様々な本社の企画や各施設での取り組みを『本社News』として定期的に情報発信することにより、相互の見えない壁を取り払う努力もしています。

 

――髙瀬:らいふでは“高齢介護弱者の救済”を謳っていますね。たくさんの高齢者の方が集まれば、それだけ認知症の割合も高くなるでしょう。同時にケアをするのって、すごく大変なこと。現場ではどのような声が上がっていますか

 

らいふ:まず、弊社の理念の一つである“高齢介護弱者の救済”で触れている高齢介護弱者とは、高齢者ご自身のことではなく、高齢者の方を介護する側のご家族様、それも「どうすれば良いか分からない、困った」と、いわゆる介護疲れに発展する可能性がある、もしくはその状況に陥ってしまっているご家族様を救済することを指しています。大切なご家族様を自宅で介護したいという気持ちは当然です。どなたにもその思いがあるはず。それに、介護される側の高齢者の方も、住み慣れた自宅で生活できるならそれに越したことはない。私自身、介護施設を運営している側の立場ながら、やはり真っ先に自宅を希望します。

そういった感情の中で、やむなく施設への入居を選択されるわけです。現場の職員たちには、まずご本人様・ご家族様の立場に置き換えることを教育しています。「目の前にいるご入居者様が自分の両親・祖父母だったら」「目の前にいるご入居者様は30年後、50年後の自分自身」と感じることで、毎日のルーティンワークになりがちな介護業務も、敬老の精神を胸に抱いたうえで介護業務に臨むことができるのです。

 

――髙瀬:ルーティンワークに陥ることもあるのですね。

 

らいふ:残念ながら、従業員は経験豊富なベテランばかりではありません。求職者は介護未経験の人から老若男女まで様々です。適切な教育の手順を踏まなければ、時折耳にする「介護施設で虐待」といった悲しい状況が生まれてしまいます。介護サービスは、ホテルと同じサービス業でもあります。優しさと敬老の精神だけではなく、ご入居している皆様を「お客様」として接し、その秘められたニーズが何かを考え続け、サービスを「させていただく」という姿勢を持つことが、今後ますます必要になってくると考えています。

 

――髙瀬:なるほど。

 

らいふ:現場の職員からは「新たな視点でマニュアルを見直してほしい」「教育できる研修センターや専属の講師を設置してほしい」と向上心のある意見が挙がっています。そういった声の中には認知症ケアに悩まされている内容も多数あります。介護の現場で何年も経験を積み重ねたベテランですら、いまだに認知症ケアに対しベストアンサーを持つことができていないのです。

 

――髙瀬:そういえば認知症プロジェクトチームなるものを立ち上げたとか。具体的には何を行っているのですか

 

らいふ:認知症のご入居者様の介護はとても大変なのですが、職員への研修のためのマニュアル整備だけではなく、各現場における取組み・工夫の全社共有を一義的目的としながら、認知症カフェ利用や農園療法など多様な社会インフラ、減薬を活用した予防・軽減策の実施、これらの取り組みをご家族の皆様、地域へ発信し啓蒙することも目的としています。45ある弊社の施設の全従業員の中からメンバーを選出し、少数精鋭で定期的なミーティングを行っています。

 

――らいふなるほど、全社規模で実施されているんですね。意見は活発に出ますか。

 

らいふ:メンバーは介護職から看護職、ケアマネ、管理者と各役職から選んでいます。立場によって気付く観点も変わりますので有意義だと思います。ミーティングで印象的だったのは、認知症ケアの取組み事例を発表した際、その内容を聞いていた他施設のメンバーが「そうやって対応しているのか!」「これは、施設に戻ってすぐ実践しよう」「こうアレンジしてはどうか」と積極的な意見が出されたことです。施設間でまだまだ技術のバラつきがあることと、このミーティングを通じてまだまだスキルアップする可能性が十分あることを実感しました。

 

――らいふらいふの役員として、経営者としての人生観や経営方針について

 

らいふ:部下や現場の職員には、常日頃から「介護サービスを提供する際、相手を将来の自分に置き換えること」と伝えるよう努めています。少子高齢化、核家族化がますます進む現代において、我々はより一層相互扶助の姿勢を意識しなければならないと感じています。少々ドライな表現をすれば、我々とお客様の関係性は「契約を取り交わし、サービスを提供する側と受ける側」というだけの関係です。しかし、介護サービスの特殊な点は、そのドライな関係性だけでは決して終わることのできない、人の「感謝」や「衰え・病気など」といった様々な感情が、驚くほど目まぐるしく動き続ける人生の縮図・社会の縮図が現場なのです。

施設における生活を例に挙げれば、両隣の居室のご入居者様や同じ食事の席のご入居者様と毎日過ごせば、さすがに赤の他人とは呼べない関係性になります。ご入居者様によっては、非常に大切なご友人の関係性となるケースもあるようです。

そう遠くない未来の話だと薄々感じてはいますが、仮に私が施設に入居した場合も、はやり自分の子どもや孫の世代の方々から介護の世話を受けることになれば、介護サービスだけではなく、良い人間関係でありたいと感じますし、ご近所さんとも仲良くやっていきたいと感じます。

プロとして、契約に基づいた介護サービスの提供に徹することは当然のことながら、大前提としては、同じくらいに「人が老いと直面しながら暮らす場面に関わること」の意味の深さを、僭越ながら現場で働く方々と比べ若干長く人生を過ごした先輩として、その思いを伝えていきたいと感じています。



認知症プロジェクトチームを中心として、
らいふはこれからも認知症に向き合い続けます!

髙瀬理事長プロフィール

◆ 高瀬クリニック高瀬理事長 略歴  


信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。昭和大学客員教授。麻酔科、小児科を経て、以来、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年東京都大田区に在宅を中心とした「たかせクリニック」を開業する。


現在、在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。


医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長

髙瀬義昌(たかせよしまさ) 


認知症サポート医

日本プライマリ・ケア連合学会認定医

日本老年精神学会専門医

 

現在の主な役職 

公益財団法人 日米医学医療交流財団 理事

一般財団法人 ITヘルスケア学会 副代表

公益財団法人 杉浦記念財団 理事

一般社団法人 蒲田医師会 理事

東京都認知症対策推進会議 認知症医療部会 委員

東京都地域ケア会議  推進部会  委員

厚生労働省 高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ 構成員

日本薬科大学 客員教授

昭和大学 客員教授