東京大学 客員准教授 五十嵐先生との特別対談 (その2)

 2020年2月21日(金) 当社の本社にて、東京大学 客員准教授 五十嵐先生(*)と当社取締役 小林が
当社が産学協同で進めている『 薬とケアの最適化に向けた認知症入居者への減薬取り組み 』をテーマに
特別対談を行いました。

 下記に対談当日の内容を掲載しておりますので、是非 ご覧ください。

* ▶東京大学 大学院
    薬学系研究科 医薬政策学客員准教授
   ▶横浜市立大学
  学術院医学群 健康社会医学ユニット准教授
                                            五十嵐 中 先生

対談内容

【取締役 小林】

 改めて、現在、五十嵐先生方と進めている「薬とケアの最適化に向けた認知症入居者への減薬取り組み」の意義とは何でしょうか?


【五十嵐先生】

 現在,厚生労働省が策定している「高齢者の医薬品適正使用の指針」に則り,御社とその指定医療機関と連携して,医薬品の適正使用に取り組んでいるところですね。超高齢社会の突入に際し,高齢者に対する薬物療法の需要はますます高まっている一方,加齢に伴う生理的変化により薬物動態や薬物反応が一般成人と異なるため薬物血中濃度が上昇しやすく、有害事象や薬物相互作用が起こりやすいのです。

 また、入居者の多くは認知機能の低下がみられます。認知症の症状は,ご存じの通り中核症状とBPSDに大別されます。抗認知症薬は,中核症状に対する進行抑制を主な目的として処方されています。BPSDに対しては,まず適切なケアやリハビリテーション,周囲の環境調整といった非薬物療法が望ましく,それでも改善しない場合に向精神薬を低用量から使うこととされています。しかし,実際は多くの薬剤が不適切に処方されているケースが多いのが現状といえます。

 上記を踏まえ,「安全な薬剤選択」「多剤併用の回避」「服薬頻度の低減」を大きな方針として入居者の薬剤とケアの最適化を図ることとしたわけです。これらの取り組みを継続することにより,介護サービスのより一層の品質向上を実現し,入居者に安心・安全な生活の場を提供し,QOLの維持・向上を目指しています。
【取締役 小林】
 201810月に,認知症の症状悪化の予防を目的として「認知症高齢者減薬取組みプロジェクトチーム」をともに発足しました。
 多剤を服用している入居者の薬剤とケアの最適化を図るとともに,専用の記録にて継続的にその内容を調査することにより,入居者のQOLや認知機能,ADLがどの程度変化するのかを定量・定性両面から調査・分析し,最終的にその結果を共同研究として発表する予定ですが、現時点でその効果は出ているのでしょうか?

【五十嵐先生】
 結果については現在解析中であり、詳細な成果をここで示すことはできませんが、施設スタッフは、薬剤調整によって起こりうる変化を事前に認識することで、医師や薬剤師に適切な情報提供を行うことが可能となり、減薬過程における入居者が大きく体調を崩したといった経験はしていません。
 むしろ精神状態が改善した、傾眠がちだった入居者が日中元気に過ごせるようになったという感覚を得ており、これまで医師や薬剤師に任せきりであった 薬の効果や副作用について施設スタッフが関心をもつようになったことも大きな成果のひとつといえます。
【取締役 小林】
 次に、この共同研究の意義とは何でしょうか?

【五十嵐先生】
 高齢者における薬剤の不適切な使用や多剤併用に関しては,すでにさまざまな研究が存在します。多剤併用の問題は,単に経済的な問題に留まらず,①有害事象の危険性を増大させる安全性上の問題,②相互作用などに伴う効果減弱という有効性の問題――など臨床的な有用性にも大きく影響する。不適切な薬剤の投与により本来期待されている効果が発揮できないことを考慮すれば,薬剤自体の価値も引き下げることに繋がりかねません。このような点から,適正使用に対するニーズは極めて高く,実際に薬剤の処方数と有害事象リスクの関係を評価した研究や,種々のエビデンスをもとにした高齢者向けの薬物使用に関するガイドラインが発行されていることは周知の通りです。
【取締役 小林】
減薬を包括的に評価した研究は少数と聞きますが、実際はいかがでしょうか?

【五十嵐准教授】

 実際の医療・介護施設において,薬を減らすことの有用性を包括的に評価したような研究は限られており,介護事業者としてはここに課題を感じていました。「薬が多い人と少ない人とでは,多い人のほうが有害事象は多く発生した」ことを観察するだけでなく,「薬が多い人に減薬を施した際に,医療の質(例えば,患者のQOLADL)を維持・改善できる」ことを視野に入れた評価が今求められています。

 また,減薬という取り組みを広めていく際に,減薬に伴う薬剤費の削減は当然の帰結として考えられます。しかし,コストだけに注目して薬剤を減らすことは,「安くはなったが,質も低下した」という批判に耐えられません。治療の質が保たれることを示して初めて,単なる「薬減らし」ではない最適化が可能と考えます。
 そして患者のQOLADLを保ちつつ,薬剤の使用を最適化できているかどうかを評価するためには,単なる支払のデータだけではなく,実際の現場から複合的なデータを得ることが必須条件となります。しかし,これまでこのようなデータを断面(1回限り)でなく,経時的に取得することはハードルが高く,実現できていませんでした。
【取締役 小林】
それでは、今回の研究というのは今後の研究・医療・介護のモデルケースになっていけるということでしょうか?

【五十嵐先生】

 今回の共同研究では,経時的に記録されているQOLADLのデータと,薬剤使用状況データや介護サービス利用状況データを統合したうえで,減薬の経済的な有用性だけでなく,臨床的な有用性の定量化を目指しています。

 入居者の背景情報と薬剤使用やQOLの情報が紐づけされ,なおかつそのようなデータが経時的に得られる環境は,減薬プロジェクトに限らず,高齢者医療の研究の基盤として有用です。レセプトデータに代表される請求や支払に関する情報の場合,患者の病態(例えば,認知症の重症度など)との結び付けが困難な側面があります。

 また一時点のみでの調査は,簡便に実施できる反面,長期的な変動や介入の効果推計には不向きといえます。今回の共同研究で構築したプラットフォームよって得られるデータはこれらの限界を克服しており,薬剤の適正使用に留まらず,治療の真の有用性を明らかにできると確信しています。

 医療費の6割近くを占める高齢者の医療費と,医療費を上回るペースで増え続ける介護保険支出に関して,支出の適正化が重要なことは論を待ちません。ややもすると,費用削減のみをターゲットにした取り組みに矮小化しがちな領域において,医療の質まで視野に入れた研究が実施できることは,医療保険,介護保険の今後の方向性において重要であることはもちろん,社会保障政策全体の検討においても有意義な知見になることを確信しています。
【取締役 小林】
本日は、貴重なお話をありがとうございました。最後に、薬剤師の方々に一言頂けますか?

【五十嵐先生】

 介護施設での薬剤の適正使用においては,各入居者が契約する薬局や医師との連携,特に刻々と変化する入居者のADLの情報共有と,それに対する処方方針の共通認識が必須となることはいうまでもありません。該当する症状が消失しているにもかかわらず漫然と処方を続けたり,新たな症状が現れた際に新たな薬剤を追加したりするような方法は,すでに多数の薬剤を服用する入居者にとってもそれを管理する介護施設の職員にとっても負担となります。

 本薬剤の適正使用に関する取り組みにおいても,開始する際には薬局薬剤師および医師と面談し,この取り組みの意義を説明して協力を仰いだ経緯がありましたね。ただ,残念ながらすべての薬局,医師から協力を得られたわけではありません。旧態依然とした処方方針に確固たる信念をもち,減薬により症状が悪化するリスクにのみ着眼する方がいたのも現実です。

 薬局薬剤師の皆さんには,医師からの指示に漫然と従うのではなく,薬剤の先にある入居者の姿を思い描いたうえで,薬のスペシャリストとして高齢者や要介護者の健康増進に大いに寄与していただくことを切望します。

対談当日の様子

対談の様子

(左)准教授 五十嵐先生 (中)取締役 小林 (右)五十嵐准教授研究室 研究生


当社の取り組み

 現在、当社指定医で認知症治療のスペシャリストである たかせクリニック 髙瀬義昌理事長および東京大学 五十嵐准教授、国際医療福祉大学 池田先生とともに、認知症の方への理解を深めるための取り組み・研究を行っております。
 その内容を公開しておりますので、下記 ボタン をクリックしていただき、特設ページを是非 ご覧ください