正しい消毒の方法

アルコール消毒で「菌」は全てなくなる?

アルコール消毒が生活の中で欠かせない今、アルコール消毒をしていれば


どんな「菌」も消してくれると思っている方も


少なくないのではないでしょうか?


しかし、アルコール消毒は万能ではありません。


その理由とは一体何でしょう。


1. 空間除菌が難しい



厚生労働省では、人がいる環境に、消毒剤などの物質空間やマスクに噴霧して


使用することは、眼、皮膚への付着や吸入による健康影響のおそれがあることから推奨していません


病原体の微粒子を室外に排出するためには、こまめに換気を行い、部屋の空気を入れ換えることが必要です。


窓を使った換気を行う場合、風の流れができるよう2方向の窓を、1時間に2回以上数分間程度、全開にしましょう。


2. アルコールで拭いてはいけないものがある


アルコールの使用が推奨されない代表的なもの
1⃣テレビ・スマートフォンの画面
取扱説明書にはっきりと「消毒用アルコールで拭いても良い」と明記されているもの以外は必ず取扱説明書に書かれているお手入れの方法で画面を掃除するようにしましょう。
2⃣プラスチック製品 プラスチック製品はアルコールで拭き取ると小さなヒビが入る、色あせる、変形する等のダメージを受けるものがあります。お店でよく見かけるコロナ対策のアクリル板もアルコール消毒で劣化が進みます。
ご家庭でプラスチック製品の洗浄・除菌作業を行う際はアルコールが含有されていない中性洗剤等を使用しましょう。
3⃣革製品・フローリング床
アルコールには油分を分解する効果があります。そのため革製品をアルコールを使用すると革から油分を奪ってしまい、革製品の劣化に繋がってしまいます。またフローリングの床も同様に表面のワックス除かれてしまったり、アルコールとワックスの成分が反応して床が白くなってしまいます。フローリングの除菌やお掃除はクエン酸スプレー(500mlの水に小さじ2)がおすすめです。
4⃣トイレの便座・トイレ回りの製品
アルコール成分が、塗装面や樹脂を傷め、塗料や樹脂がアルコールに溶けて変色したりヒビが入る、また、コーティング性能の劣化を引き起こす恐れがありますので、使用を控えましょう。トイレの便座専用の除菌スプレーを使いましょう。


3. アルコール消毒が効く「菌」・効かない「菌」がある



① 「菌」って何?


皆さんが普段言葉にする「菌」とは病原微生物の一種であり、細菌やウイルスなどを指します。


そして人に悪さをする「菌」と一括りにされがちですが、


細菌とウイルス(生物と非生物の間に位置する)は全く別のものです。



② 消毒・除菌・抗菌…色々あるけど何が違うの?



「消毒」・「殺菌」という製品への表記は、「医薬品」や「医薬部外品」にのみ使用が認められています。

「除菌」は、医薬品や医薬部外品ではないいわゆる「雑品」と呼ばれる製品でも使用できる用語なので、

スプレーやウェットシートといったウイルスや細菌の対策アイテムだけでなく、洗剤、漂白剤など

幅広い製品で使用されています。


③ アルコールはなぜ「菌」に効くの?



アルコール(エタノール)に殺菌効果がある理由は…

細菌やウイルスの細胞膜(脂質で構成)を溶かし細胞を破壊、死滅させる。


細菌やウイルスの細胞のタンパク質構造を壊すからだと言われています。


※アルコール消毒液は効果が高いエタノール70%程度を含有した製品がおすすめです。



④ アルコールが効かない「菌」がいる?



アルコールが効かない細菌・・・『芽胞菌』



芽胞菌とは煮沸・冷凍・乾燥・アルコール消毒などにも耐えて生き残ることができる強い芽胞


耐久性の非常に高い殻のような細胞構造)を持つ菌です。


主な芽胞菌の代表例は以下の通りです。


納豆菌
納豆菌は納豆を製造するために必要な芽胞菌で枯草菌(こそうきん)の1種です(諸説有り)。稲の藁に多く生息し、日本産の稲の藁1本に、ほぼ1千万個の納豆菌が芽胞の状態で付着しています。
腸内環境を整えてくれる有用な菌です。
炭疽菌(たんそきん)
とても致死率の高い病原体で、土壌の中に生存しています。炭疽菌という細菌名は、病変部が炭のように黒いカサブタに覆われることに由来します。
炭疽菌に感染した動物の血液、体液、死体などに汚染された土が傷口に入った場合、感染した動物の肉を食べた場合、菌を吸入した場合に人へも感染します。
日本では、家畜衛生などの改善により動物の炭疽発生は減少しました。また、ヒトの炭疽は1974年以降ほとんど見られなくなっています。
破傷風菌
世界中の土壌や汚泥の中、動物の糞などに生存しています。傷口から体内に侵入すると神経の働きを麻痺させる毒素を作り出し、痙攣・開口障害・嚥下困難、続いて呼吸困難が生じ、重症化すると呼吸困難を起こして死亡することもあります。
日本では、気温が高く湿気の多い夏に破傷風の患者数が多くなるものの、年間患者数は100人前後で推移しています。
ウェルシュ菌
豚、牛、鶏、魚などの動物の腸内や、土、水中など、どこにでも存在する菌です。ヒトの腸内に常在しますが、ビフィズス菌のような有益な腸内細菌ではなく臭いオナラの原因にもなる悪玉腸内常在菌です。
食中毒を起こすのは常在ウェルシュ菌とは異なる特殊な性状を獲得したウェルシュ菌で、カレーやシチュー、スープ、煮物などで起こります。
ウェルシュ菌が体内に取り込まれると、腸内で増殖し、エンテロトキシンという毒素を出します。この毒素が食中毒の原因となり、腹痛や下痢を引き起こします。潜伏時間は平均して10時間前後で、食べ物を摂取した当日に症状が出ます。比較的に症状が軽いので、1日~2日で自然と回復傾向に向かいます。
食中毒の予防策として、作りおき調理をする場合には、室温に放置して温度が下がるのを待ってから冷凍保存するのではなく、調理後に一気に冷却保存するのが菌を増殖させない方法です。また、ウェルシュ菌は酸素を好まない菌なので、かき混ぜながら調理することで酸素を多く鍋の中に取り入れることができ、ウェルシュ菌の好まない環境を作りだすことが出来ます。
ボツリヌス菌
ボツリヌス菌は土壌や海、湖、川などの泥砂中に分布しています。ボツリヌス菌の芽胞は、低酸素状態に置かれると発芽・増殖が起こり、毒素が産生されます。この毒素は、現在知られている自然界の毒素の中では最強の毒力があるといわれています。
酸素のない状態になっている食品が原因となりやすく、 ビン、 缶、真空パック、レトルトパウチ食品、蜂蜜などにおいて、120℃で4分間、あるいは100℃で6時間加熱して、ボツリヌス菌を死滅させていない食品を原因として食中毒が発生しています。
ボツリヌス食中毒では、ボツリヌス毒素が産生された食品を摂取後、8時間~36時間で、吐き気、おう吐や視力障害、言語障害、物を飲み込みづらくなるなどの神経症状が現れるのが特徴で、重症例では呼吸麻痺により死亡します。
食中毒の予防策として、毒素を80度30分の加熱で不活性化する容器が膨張したり酪酸臭がする保存食は食べないなどが挙げられます。
セレウス菌
セレウス菌は、土壌細菌のひとつで、土壌・水・ほこり等の自然環境や農畜水産物等に広く分布しています。
セレウス菌による食中毒の原因食品としては、嘔吐型の場合は米飯、スパゲティなどで、とくに穀類と関係している場合が多く、イモ、麺類、チーズ製品といったデンプンを含む食物が関係している場合もあります。これらのものが混じっているソース、プリン、スープ、麺類、サラダ、鍋焼き料理などが関係する場合もあります。下痢型では、食肉製品やミルク、野菜、魚、そしてこれらを材料としたスープなど、いろいろな食物が原因となっています。
日本で発生しているセレウス菌の食中毒のほとんどは嘔吐毒によるものです。嘔吐毒は食品中でつくられ、食品と共にこの毒素を摂取することで食中毒が発生し、潜伏期間は1時間から5時間です。
一方、下痢型の食中毒は、菌が付着した食品を食べ、腸管内で菌が増殖するときに産生した下痢毒により発症する感染型の食中毒になり、潜伏期間は8時間から16時間です。
食中毒の予防策は、必要最少量の調理を行い、速やかに提供・喫食する保管する場合には、8℃以下または55℃以上を保つことです。


アルコールが効かないウイルス・・・ノンエンベロープウイルス



ウイルスにはエンベロープをもつウイルスともたないウイルスがあります。


エンベロープは脂質から作られており、ウイルス自身で作り出したものではなく感染した


細胞の細胞膜に由来するものです。


自分を保護できるバリアになったり、細胞膜と同じ素材なので新たな細胞と簡単に


膜融合できます。


アルコールや石鹸など、脂質を溶解する消毒液を使うことで、脂質から構成される


エンベロープは破壊され、膜融合できなくなったウイルスは失活してしまいます。



一方、ノンエンベロープウイルスはウイルスにとって利点でもあり弱点でもある脂肪膜がなく、


本体もアルコールに強い性質のためアルコール消毒は有効ではありません。


エンベロープウイルス (ノロウイルスが食中毒関連の代表格)

エンベロープウイルスはアルコールで
膜を破壊し不活化できる


ノンエンベロープウイルス (ノロウイルスが食中毒関連の代表格)

ノンエンベロープウイルスはアルコールが
効きにくいが次亜塩素酸ナトリウムより
不活化できる



4. 正しい方法で消毒・不活性化を!



① 両性界面活性剤



消毒の基本は第一に石鹸などを使った手洗いで物理的に洗い流すこと!

また、両性界面活性剤は細菌やウイルスの細胞膜を溶解し細胞を破壊し、

死滅、もしくは失活させる効果があります。


② アルコール



一般的に「アルコール消毒」と呼ばれているものは、正確には「エタノール消毒」です。

手指消毒をする時に用いるエタノールの濃度は70%程度のものを使用してください(WHO規準)


濃度が薄すぎたり濃すぎると、十分な殺菌及び不活化効果が得られなかったり時間がかかる場合があり注意が必要です。

※効果的な消毒は対象の水分やウイルスの種類に応じた濃度の選択が必要です。

アルコール消毒はまず手を洗い、しっかりと乾かしてから行うことが大事です。

しっかり1プッシュ分を出してびしょびしょになるくらいつけないと効き目がありません。

消毒薬がきちんと手や指全体に行きわたるようにつけ、乾くまで30秒から1分ほどすりこみましょう。


③ 次亜塩素酸ナトリウム



次亜塩素酸イオンから成る強アルカリ性の消毒液で、酸化作用を持ちつつ、原液で長期保存ができます。

ハイターなどの塩素系漂白剤が代表例です。

ドアノブ・手すり等の消毒には0.05%に希釈したものを使用してください

手荒れや炎症を引き起こすため手指消毒には向かず、金属を腐敗させることもあります。

後述の次亜塩素酸水と名称はよく似ていますが、性質は全く違う溶液です

誤って空間噴霧をしないよう注意してください。


④ 次亜塩素酸水



次亜塩素酸水は次亜塩素酸から成る弱酸性で手指の殺菌消毒、部屋や衣服・ペットの除菌消臭

などに使用される人体に影響の少ない消毒液です。

但し短時間で酸化させる効果がある反面、化学的に不安定であり、保存状態次第では時間と共に

急速に効果が無くなります。


5. まとめ



アルコールは多くの種類の菌やウイルスを除去するのに日常生活において非常に便利

ですが、それだけに頼らず、手洗いやその他の消毒方法と併用していかなければ

正しい消毒の効果は得られません。

アルコールのメリット・デメリットを把握した上で、有効活用していきましょう。